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ひゃくなのハナシ

見つけた。

2020/12/03 21:57 趣味 家族


にゃあーん


僕は大きな声で鳴いてみた。

でも僕の目の前のドアは、開かない。


このドアの向こうには、きっとお父ちゃんがいるはずなんだけど、全然出てこない。

前はここで待っていれば、ジャージャーガタガタ音がして、シャカシャカ布が擦れる音がして、あーぁあ!とか、んー!とか声がして、お父ちゃんが出てくるんだ。


そして、抱っこしてくれるんだ。


「クルー、待ってたのか? いい子だね」って。


せっかく着替えたいい香りのシャツに、僕の黒い毛がいっぱい付くけど、そんなの全然構わないんだ。

お母ちゃんは怒るけどね。


でもあの日から、お父ちゃんは出てこない。いったい何をしてるんだろ?


あの日、このドアの向こうで、いつもはしない音がした。

がたがたーん!って、で、ぐぁー、とか、ぐぐぐー、とか声がした。

僕はびっくりして、にゃあーーんにゃあーーんにゃあーーんって鳴いた。

目いっぱい背伸びして、ドアをガリガリガリガリ引っ掻いた。


とうちゃんとうちゃんとうちゃん!


爪が取れるくらい引っ掻いた。

喉が痛いくらい鳴いた。

そしたらお母ちゃんが走ってきて、僕を抱えて別の部屋に連れて行って、お姉ちゃんがドアをドンドン叩いて、それから、それから。


お父ちゃんは出てこなくなったんだ。


だから僕は、毎晩毎晩お父ちゃんが出てくるのを待ってるんだ。

みんなが寝てしまってから、ずっと。

このドアの前で。


ある晩、僕はドアの向こうにいるお父ちゃんを呼んでみた。


にゃあーん、にゃあーん


そしたらね、「クルー」って声が聞こえたんだよ。

お父ちゃんの声! 廊下の方から!

でもね、その声の方には、誰もいなかったんだ。


おかしいな? 僕は首をかしげた。


そうか、やっぱりこのドアの向こうなんだ!

僕は目いっぱい背伸びして、ドアを引っ掻いた。

カリカリカリカリ、ガリガリガリガリ、ガリガリガリガリ!

一生懸命鳴いた。

にゃあーおにゃあーおにゃあーおにゃあーお


そしたらね、何かがふわっと、僕を包んだんだ。

とてもうれしい感じ。

とても懐かしい感じ。

でもそれっきり。


お父ちゃんはやっぱり出てこなかった。



あれから何回、僕はこのドアの前に座っただろう。

どんなに鳴いても、お父ちゃんは出てこない。


でもね、きっといるんだよ? だって、いつも小さな声が聞こえるし、ふわっと幸せな気分になるんだもの。


探さなきゃ、お父ちゃんを探さなきゃ。

毎日、毎日。



あれからどれくらい待ったろう。


いつの間にか僕の足は弱くなって、ソファーに乗ることもできなくなった。

なんだか息もしにくくなったし、ご飯も食べられなくなっちゃって。


それで、お母ちゃんとお姉ちゃんは、いつも僕のそばにいるようになったんだ。

お父ちゃんを探さなきゃって、お母ちゃんに言うんだけど、「駄目だよクルー、ここで寝ておきなさい」って、優しく撫でてくれるんだ。


そんなとき、僕は幸せだなって思うんだよね。


その日もね、ご飯は食べてないけどお腹はすいてないし、お母ちゃんとお姉ちゃんがいっぱい撫でてくれるし、とっても眠くなって、もう寝よって思ったんだ。


とっても幸せだなって、思いながら。

お父ちゃんに会いたいなって、思いながら。


目を閉じた。




あれ? 今夜は少し違う。

体が軽いよ?

お母ちゃんとお姉ちゃんは泣いてるみたいだけど、大丈夫!

僕は元気になったんだ!


僕は足取り軽く、あのドアの前に座って、にゃーーんって、いつもより大きな声で鳴いた。

そしたらね、廊下の方に誰か見えたんだ。


「お父ちゃん!」


やっと見つけた! 僕はもっと大きな声で鳴いたよ。


「にゃーーん!」


僕はお父ちゃんに甘えたくてしょうがないんだ。


「クルー、お前、ずいぶんと年寄りになっちゃって」


お父ちゃんが言うから、僕はお父ちゃんに向かって走り出した。

「クルー」

僕はお父ちゃんに抱きしめられて、にゃんって鳴いた。

僕は嬉しくて嬉しくてしょうがないのに、なぜだろう、お父ちゃんは泣いている。


そうだ、僕には行くところがあるんだ。

そうだ、お父ちゃんと一緒に行こう。

僕はお父ちゃんの腕から飛び降りた。


「クルー、どこにいく?」


僕は振り返って鳴いた。

「にゃおーん」

お父ちゃん、こっちだよ。

お父ちゃんは僕の方に歩いてきた。

もう大丈夫。お父ちゃんと一緒に行ける。

僕はもう一度、お父ちゃんに抱っこしてもらった。


お父ちゃんは僕を両腕に抱いて歩く。


暗いはずの廊下は、光に溢れていた。

光は様々な色で瞬いて、僕とお父ちゃんを包む。

お父ちゃんはもう泣いてない。穏やかな顔で、眩い光を浴びている。


いつの間にか僕とお父ちゃんは、虹色の橋を渡っていた。


お父ちゃんは優しい顔をしているなぁ。

だから好きなんだ。


「にゃーん」 ”いつも一緒だね”

そう鳴いた。


「そうだね」

お父ちゃんは笑った。


やっぱり僕は幸せだ。



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